七、 カンクン・だましのテクニック

 青い海、青い空、白い砂浜・・・

 ユカタン半島の先端に位置するカンクン。カリブ海とラグーンに挟まれた約20kmの細長い州がリゾート地として開発されると、またたく間に世界的リゾート地として有名になり、アメリカをはじめ、世界中からたくさんの観光客を集め続けている。

 しかし、このカンクンは、メキシコにとって外貨を稼ぎ出すドル箱だけのことはあり、他のメキシコの地方とは比べものにならないくらい、物価がめちゃくちゃ高い。特に、高級ホテルや高級レストランが点在している「ホテルゾーン」と言われる地域は、異常なくらい高いのだ。

 たとえば、普通の酒屋で160円のビールが、ホテルゾーンでは1050円もしたり、普通のコーヒー屋で1杯100円のコーヒーが、ホテルゾーンでは350円もした。

                          

 物価というのは、需要と供給の関係で決まり、その値段でも買う人がいるから、そういう高い価格をつけているのだろう。すなわち、ホテルゾーンは世界中の金持ちが集まるところであり、また、きれいな海を見ながら、おしゃれなレストランで食事をしたい人にとっては、その価格でも高くないのかもしれない。だから、私たちのような節約しながら旅をしたい貧乏旅行者にとっては、行くべき場所ではないのだろう。従って、カンクンでの物価が高いからといって、これについては何も言うつもりはないし、何も言えないと思う。黙ってカンクンから立ち去るのみだろう。

                          

 しかし・・・・・・。
 私が言いたいのは、このことではない。カンクンで許せなかったのは、姑息に客をだまして、少しでもたくさんのお金を客から搾り取ろう、という店員が多かったことだ。もし、客がそれに気づかず、言われた料金を払うことになると、正規の物価が高い上に、この「ごまかし分」が上乗せされることになり、実質的な物価はさらに高騰する。それよりも、何よりも、店員のごまかしに気づいた時に、こちらの気分が悪くなる。せっかく美しい海を見て、いい気持ちになっても、台無しである。このことが許せないのだ。

                          

 メキシコに入国するまでは、
「メキシコって、お客をだましてお金を取ろうとするんだろうなあ。用心しなきゃ。」
って思ってたが、入国からカンクンに到着するまでの約2ヶ月半もの間、だまされかけたのはたったの1回。メキシコシティで、地下鉄の切符のお釣りをごまかされかけた時だけだ。

 たいていは感じのいい店員や、その店にいるお客との、心地いい空間やコミュニケーションを楽しむことができていた。

 しかし、カンクンでは、たったの1週間しか滞在していなかったにもかかわらず、なんと10回以上も「ごまかし」を経験した。これだけ経験すると、どの店に入っても懐疑心がわきあがり、店員との信頼関係がなくなって、まったくリラックスできなくなる。そしてとうとう最後には、一刻も早くカンクンを立ち去りたくなってしまった。

 それでは、私が経験した「ごまかし」の手口を以下に紹介する。
1ペソ=約10円として換算していただくと、イメージしやすい。)




●カンクンに到着してすぐ、屋台のタコス屋で、タコスを4つ注文した。お勘定は35ペソ。
「4つ注文したはずなのに、4で割り切れないなあ。」
と思い、
「一ついくら?」
と聞くと、
「8ペソ」
と答えるではないか。
「じゃ、32ペソでしょ?」
と言うと、今までの愛想のよさとは手のひらを返したように、急に無愛想になって、黙って3ペソを返した。
 ちなみに、ここのタコス屋、メキシコじゅうで最もまずかった。
 カンクン到着早々、いきなり洗礼を浴びてしまった。

●セブンイレブンでコーヒーを買った。レジで15ペソと言われた。他の地方では1杯10ペソなので、
「高いなあ」
と思いつつ、15ペソを払った。こづかい帳をつけるため、いつもレシートをもらうことにしているので、
「レシートをくれ」
とお願いすると、そこには14ペソと書かれていた。
「1ペソ足らない」
と訴えると、店員はすごくバツの悪そうな顔をして、シブシブ1ペソを私に渡した。

●高級ホテルが立ち並ぶいわゆる「ホテルゾーン」のホテルは、通常で1泊3000ペソ、年末年始になると1泊5000ペソ以上、高いところでは、10000ペソ以上にもなるらしい。
 しかし、私たちが泊まったのは、庶民が暮らすいわゆる「ダウンタウン」にあるホテルだったため、1泊600ペソで予約できた。事前に電子メールで予約したのだ。
 そして宿泊日当日。ホテルに到着し、フロントで料金を聞くと、660ペソと言うではないか。私は、
「600ペソで予約しているはず。マネージャーに聞いてくれ」
と訴えると、気恥ずかしそうに少し言い訳をし、簡単に600ペソに下がった。
 私が電子メールでやり取りしていたのは、ここのホテルのマネージャーであり、このフロントの兄ちゃんはこのことを知らなかったため、
「高く吹っかけても払ってくれるだろう」
と思っていたようだ。

「アミーゴまんちゃん」の両替に付き合うため、町の両替屋に行った時のこと。まんちゃんは220米ドル分のトラベラーズチェックをメキシコペソに両替しようとしていた。換算レートを聞くと、1米ドル=10.95メキシコペソ。トラベラーズチェックと引き換えに、たくさんのお札と、たくさんの硬貨が返ってきた。私はちょっといやな予感がしたので、
「ちゃんと計算しましょう」
とまんちゃんに提案したが、こういうときに限って手元に電卓がない。仕方なく、紙とペンを取り出して、小学生がやるように紙に書いて、地道に計算した。
「え〜と、220かける10.95は、・・・・・・」
 うしろに人が並んでいることには全くかまわずに、慎重に間違いのないように計算した。こういう時は、うしろの人もグルになっていることがたまにあるらしい。
「答えが出ました。2409ペソです。ちゃんとあるかどうか、数えてみましょう」
すると、何度数えても、2309ペソしかないではないか。

 両替屋のおばはんにその旨を訴えると、おばはんはちょっと不機嫌な様子で、今渡したペソを全部返せと言う。それを受け取ったおばはんは、数えるフリをして、こそっと100ペソ加え、もう一度こちらにお金を手渡したのである。その瞬間を、私もまんちゃんも見逃さなかった。

●よしださん・まんちゃんと4人でビールを飲もうとレストランに入った時のこと。ひとり1本ずつ飲んで料金は全部で82ペソ。100ペソ札で払って戻ってきたお釣りは8ペソしかなかった。私はてっきり、
「勝手にチップを抜いたんだなあ」
と思った。それにしても、黙ってチップを抜く店は初めてで、その時はすごく腹が立った。しかし、後から考えると、お釣りをごまかしたとも考えられる。いや、おそらくお釣りをごまかしたに違いない。
(もし、さらに別にチップを置いていたら・・・)
と考えると、ますます腹が立ってきた。

●大晦日の夜、あるレストランの前に
「Two for One」
という看板が立っていた。これは、
「1杯の料金で2杯分飲める」
という意味だ。
 そのレストランに入り、みんなが2杯ずつ飲んだ後、伝票を見たら、1杯分の料金が通常の約2倍になっていた。これだと、2杯分の料金を払うのと同じことだ。私はあんまりお酒が強くないので、
「2杯目なんて無理やり飲んだのに、これだったら普通の店で1杯だけ飲んだ方がよかった・・・」
と思った。

●よしださん・まんちゃんと4人で、「ホテルゾーン」にあるレストランで食事をした時のこと。お勘定をお願いすると、ウエイターは口頭で、
「500ペソ」
と答えるではないか。頭の中で計算した料金は、だいたい320ペソぐらいだったので、
「え〜!!うそ〜!伝票を持ってきてくれ」
と言うと、これまたシブシブ、しかも10分以上もかかって、やっと伝票を持ってきた。そこには、
「合計440ペソ」
と書いてある。すなわちこの時点で、60ペソもごまかそうとしていた。

 さらに、内訳を見ると、
「食事代320ペソ、よくわからない何かが120ペソ」
と書いてあった。私は店員を呼んで、
「この120ペソは何?」
と聞くと、
「タックス(税金)」
と答えた。
 メキシコでは、どこでもほぼ例外なく、内税表示である。すなわち、表示価格を支払えば済むようになっている。なのに、ここではなぜか、メキシコでは初めて経験する外税だった。しかも、120ペソとは、なんと高い税金なのか!!120ペソを320ペソで割ると、なんと37.5%というとてつもない税率だ。
「どう考えてもおかしい」
と思ったが、よしださんとまんちゃんが乗る飛行機の時間が迫っており、かなり急いでいたため、この時ばかりは言われるがままに支払ってしまった。

●カンクンからフェリーで25分ほどにある、イスラ・ムヘーレスという島でのこと。スーパーのレジに並んでいると、思っていた金額より少し高かった。もらったレシートを見てみると、買ってもいない牛乳(10ペソぐらい)が勘定に入っていた。

 この手口は、
 ・私たちの前にいたお客を装った人が、牛乳をレジ台に残して立ち去る。
 ・私たちのお勘定の途中で、私たちの目を盗んで牛乳のバーコードを通す。
 ・商品を袋につめる人もグルになり、牛乳だけは袋に入れないようにする。


 私たちは買った商品が少なかったからごまかされずに済んだものの、30点も40点も買うお客さんならわかりづらいと思う。このようにPOSレジを採用しているスーパーでさえも、このようなごまかしが行われていたことに、少々驚いた。

●カンクンを去るバスに乗るために、バスのチケットを買った時のこと。価格を尋ねると、プラヤ・デル・カルメンというところまで、ひとり32ペソだと言う。
「ということは、ふたりで64ペソだから、200ペソ札を出すと、・・・え〜と・・・お釣りは136ペソだな」
と考えながら、もらったお釣りを見ると、126ペソしかない。チケット売り場のおっさんは、
「今すぐバスが出るから、急げ、急げ」
と言っている。私たちの後ろも長蛇の列。ますます怪しいと思い、もう一度冷静に頭の中で計算をし、やっぱり足らないと思い、
「10ペソ足らない」
と訴えると、おっさんは、私に渡したお釣りを全てもぎ取り、数えるフリをして10ペソを加え、
「何が足らないの??」
という顔をしながら、黙ってこちらにお釣りを返した。
 カンクンでは、最後の最後までいやな思いをすることになった。




 このように、カンクンにいたたった1週間だけで、これだけの出来事があった。金額としてはたいしたことはないかもしれないが、これだけ立て続けに起こると、本当に気分が悪くなる。正直、
「二度とカンクンなんかに来るもんか!!」
と思った。

                          

 以下に、私なりの対策を考えてみた。

◎お金を支払う前に、だいたいの金額をつかんでおくこと。

◎店員やうしろの列のお客のプレッシャーに負けないこと。周りのお客もグルになっていることがあるし、だいたいメキシコでは人を平気で待たせるので、ちょっとぐらい待ってもらっても何とも思われない。

◎多額のお釣りをもらわないようにすること。すなわち、10ペソの買い物に200ペソ札を出すようなことはせずに、せいぜい50ペソ札ぐらいにしておく。

◎スペイン語でのやり取りになるが、決してあせらないこと。冷静に価格を聞いて、わからなければ何度でも聞きなおすこと。スペイン語で早口で言われたら、やっぱり少しあせってしまうし、また、スペイン語で聞き直すのも躊躇してしまうのが普通だ。しかし、
「こちらはスペイン語がよくわからないので、ゆっくり言ってくれ」
という態度で、堂々としておく方がいい。

◎従って、スペイン語の数字は覚えておくこと。最低限、1000までは覚えておく。

◎お釣りをもらっても、すぐには財布やポケットに直さないで、店員の目の前で数えること。

◎できればレシートをもらい、内容を確かめること。メキシコでは、通常はレシートがもらえず、こちらから申し出て初めてもらえることがほとんどだ。

◎最後は日本語で喜怒哀楽を表す。これが意外に効く。
「日本語も結構通じるもんだなあ」
って思うことがよくあった。

                          

 しかし、このようなことがこれからも普通に行われ続けているのであれば、世界的リゾート地としてのカンクンも、そのうち観光客から敬遠されるようになるかもしれない。さらに、メキシコと言えばカンクンしか知らない人々もたくさんいるし、彼らにとっては、メキシコという国に対するイメージが悪くなることもありうる。

 もし、カンクンに行かれる方がいらっしゃったら、また、他の観光地でも同様の手口が行われる可能性もあるので、ぜひ参考にしていただきたい。


                        

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